Hi, I'm Kei.
How'er you doing?
トンネルを抜けると、そこは雪国だった。
というあまりにも有名な言葉。比較的雪国と言われる地域に住んでいるので、幼少より使っていた。私が住む長野県も、今年は本当に雪が降らない。暖冬とはいうものの、あまりに降らなくて心配になる程だ。
そんな中、豪雪地帯に分類される地域に仕事で行く機会があった。同僚と共に車でその地域に足を踏み入れると・・・そこはまさに雪国だった。
歩道は雪に埋もれ歩けない。畑は一面雪景色。山にも雪がかかっている。やはり、冬の長野はこの景色である。
そんな景色を同僚と見ながら、昼食を取ることにした。
地元の繁盛店らしきところに行き、たまたま店先の駐車場にいたおばちゃん、クルクルパーマで明るい茶色の髪をした、赤い上着を着たあのおばちゃん、に話しかけた。お店の評価を聞きたかったのである。「ここのお店は味はなかなか良いよ」とのこと。あのおばちゃんが言うなら間違いないだろう。
安心して入店し、テーブル席につく。愛想の良い、奥さんらしき店員さんが注文を取りに来る。あぁ、この店は大丈夫だ。安堵してメニューを見る。
僕は野菜炒め定食をオーダー。同僚は・・・鍋焼きうどん。
な、鍋焼き・・うどん!
僕は、鍋焼き・・・うどんですか?
という顔で彼を見た。
彼は、鍋焼きぃ・・・うどんだよ!
という顔で、僕を見た。
にしおかぁ・・・すみこだよ!
の、発音に間違いない。
そういう類のドヤ顔だった。
寒い季節とはいえ、昼食に鍋焼きうどんもなかなかのチャレンジャーだ。僕は怖くて鍋焼きうどんという選択はできない。
というのも、僕は汁物と辛いもので失敗したことがあるのだ。
とあるラーメン店でのこと。その日は辛いものが食べたいと思い「サンラータンメン」をオーダーした。出てきたラーメンはそれはそれは高温で、餡掛けの辛味を含んだスープと麺が絶妙に絡み合っていた。
一口食べると、舌をヤケドする位の勢いなのである。グツグツになった熱々の汁物。餡が絶妙に蓋の役割をしていて、全く冷めない。そして、ラー油の辛味と酢の酸っぱさの波状攻撃が、空腹を満たすとともに、体温を上昇させていく。
熱くて辛いものをを昼に食す。これは、自分自身が否応無しに、汗だくになる。額まで汗をかいて食べた後、ワイシャツまで汗ビショビショになり、どうしたものかと困り果てた事がある。
その状態で商談に行くのはリスクしかない。
サンラータンメン
マーボーラーメン
鍋焼きうどん
この3強は、僕のランチメニュータブーランキングベスト3だ。
彼は、汗をかかないのだろうか。代謝が極端に悪くて、そういう心配は不要なのだろうか。いくら雪景色だからと言っても、部屋は暖かい事を忘れてるのではないだろうか。ゲレンデが溶けるほど熱い鍋焼きうどんに恋したい、字余りの広瀬香美。などと考えながら、涼しい顔をして、上着を着たままで鍋焼きうどんを待つ同僚と別の話をしながら待っていた。
まず先に、僕のオーダーした野菜炒め定食が来たのである。鍋焼きはグッツグツのグーラグラのチンチンに茹って来るわけだから、野菜炒めなるイージーオーダーからが定石である。
美味しそう・・・
・・・。ちょっと、待て。
これ、もやし・・・だよね?
見た目違うようで・・・同じ、だよね?
しかも、これ。
本体も、結構もやし・・・だよね?
確かに、野菜炒め定食で間違いない。
偽りは全くない。
この炒め具合からも、きっと美味しいと思う。
しかし、だ。
これは、謎。
小鉢2つ付き!とか謳ってもないのに。
これ、あれだ。
こういうやつだ。
助さん!
「はっ!」
角さん!
「ははっ!」
「御隠居!!」
参りましょうぞ!
どどーーーん!
どんだけぇ・・・もやしだよ!!
無意識に、
にしおかぁ・・・すみこだよ!
の音程で突っ込んでいた。
器が変わると雰囲気が変わり、味わいも変わるはず。そういう視覚で楽しませるという店側の工夫を無碍にしてはならない。
黒の方が深みが・・・味は同じだ、と。
これは、出会った事がない。
これは、近年まれに見る出来事。
これは、ある意味汗が出る。
と、思いながら、味の違いをよく考えながら食べたわけではあったが、ひとつ大事な事を見落としていた。
同僚の鍋焼きうどん、僕が中身確認していないまま、既に完食していたのである。
上着を着たまま、涼しげに。
そんなこと、あるのか!?
鍋焼きぃ・・・うどんだよ!?
もしかして、冷やしかな?
冷やし鍋焼きうどんかな?
恋愛といえば、西野かな?
もう、訳が分からないのである。
あのおばちゃんが言った通り、味は良かった。良かったけども、違う意味で印象的だった。
こんな強烈な印象を受けたのだから、こちらもサプライズで返さないといけない。
お会計の時が来た。
会計は850円である。
これが、僕のサプライズだっ!!
一瞬、時間が、止まる。
二千円札、珍しいですねー!
という言葉と笑顔と共に、1150円のお釣りを貰って、お店を後にしたのである。
よし、貰ったサプライズは、サプライズで返せたぞ。
外の冷たい空気を吸いながら、やり切った感を感じた。お互いの印象に残る出来事であったと思う、雪の街角。
また、あのお店に行こうかな。